バアバの畑

うちのバアバは8人だか9人兄弟(男ばかり)の末っ子だった。

(バアバ=私の母親のことです)

男共みんなに可愛がられて性格はわがままいっぱいに育ってしまったバアバだったが、何を血迷ったか、地方都市で敏腕営業マンと出会う。後の私の父である。営業マンは工場長となった。しかし、彼には「親父が60歳になったら田舎へ帰り農業を継ぐ」という長男としての悲しい宿命があったのだった・・・(遠い目で続く)

何の縁だか田舎の果樹農家の長男に、ワガママ末っ子性格丸出しの若い娘は、嫁いでしまった。しかも長男の嫁って・・・逃げてーー。

長男は、両親が高齢になったら家に帰るという気持ちで都会で働いていた。そして営業成績もよく、職場での将来も約束されていたが「長男だから」田舎に帰ってきた。バアバを連れて。元々、社長の娘だか重役の娘だかと結婚するんだろうなと算段していた姑は、バアバのことがかわいくなくて、バアバが言うことには、それはネチネチといじめられたらしい。

・・・まあそれはバアバのサイドから見た話だから。

姑側から見たら、我儘だとかかわいくない性格だったとか、バアバにも非はあったのかもしれないんだけどね。

ワガママではっきりものを言う嫁だったバアバは、姑とあんまりうまくいかず苦労をした。でも何十年もたって、姑の介護を誰がしたか。実の娘は何人もいたのに、最後はバアバ(他人である長男の嫁)が看取った。姑ばあちゃんは過去にはバアバ(嫁)と言い合いになり、「もう死んだほうがまし~」と泣いて川に走って泣いたり、いろいろバトったのにもかかわらず、最後は、「ありがとう」といったんだそうな。姑ばあちゃんは、大柄な女で、最後は痴呆がかなりきていた。夜中はバアバ曰く「目がランランとしたりうわ言を言ったりして、怖かった」

そんな二人だったが、姑も死ぬ間際に「本当にありがとう」とバアバに言って、息を引き取った。葬式の日は季節外れの吹雪。おじちゃんたちは、「おばあちゃんが怒っている、娘が嫁に押し付けて何もしなかったからだ」とヒソヒソした。

 

長野県の飯山市に、近所のおじいちゃんおばあちゃんをモデルにつくった人形を展示している「高橋まゆみ人形館」がある。そこに展示してある「頑固ばあさんの家出」見て、私は大きな衝撃を受けた。

「ばあちゃんそっくり」

本当にそっくり。身内に見せたら100人がそっくりだと言うよ、そのらいそっくり。

そんな頑固ばあさんのいる家に二十代前半で嫁いできたバアバ・・・本当にかわいそう。

夫は実家を継ぐため、今までしていた会社員を捨てた。

畑して自営業して、消防やって、田舎のお寺のお付き合い盛りだくさん。

バアバはそんな毎日で苦労の連続だったと思う。今は悠々自適に農業、のんびり過ごしている。バアバ曰く「おばあちゃんが守ってくれている気がする」

やめて怖い。

 

先日、バアバの直売所のお手伝い(っていうか見学)に行ったんだけど、軽トラのカギを残したままドアロックしてしまった。ジイジにスペアを持ってきてもらうまで、直売所で待っていた。

待っている間、そこらをウロウロ見たりとうろついていたのですが、バアバと2回りも年上のような生産者さんが、「カキいらない?安くしとくよ、サービスするよ」と話しかけてきた。

「いや、さっきカキ20パックも出してきたばっかりなんで」とも言えず無言でニコッと笑った。直売所に出している人も高齢の人が多いんだな~って思った。

車を運転できないといけないし、輸送にかかる費用も全部自分持ちだし、

さらには「若いお母さんやお金のない人も買えるように」値段を安くしているし、

それについてだれにも咎められないし、なんだかなあと思って帰ってきた。

でももし、大災害などが起こって、食料が一時的になくなったとしたら、

一番強いのは、生産者なんだろうな・・・。

「はだしのゲン」を小学校のとき図書館で見たけど、お百姓さん、いじわるだったなあ。

 

うちのバアバのつくる野菜。ネギが信じられないくらいおいしくて高品質だった。

でも、直売所には出さないらしい。

直売所の人もそこまでは管理はしていない。「出したい」って言われたものを売っている、というか場所を貸しているだけ。

そこまで、っていうのは、歩いて営業回りして、おいしい野菜を探す、という意味で。出荷するものより、家族のためにつくっている野菜、本当に美味しいのだ。

農家の人が自家用でつくっている野菜が本当においしい農作物なんだけど、残念ながらそういうものは流通にのらないし、これからものらないんだなあと思った。

本来、畑をするとか野菜をつくるとか、そういうのは、みんなが自分でやったほうがいいくらいのこと。それを流通にのせようとするのは無理があるし、なんで無理があるのかは、畑をしたり野菜をそだてたりすればすぐわかることで、畑もちゃんとしていないし育てて最後の始末までしていない人に限って、「半端野菜を流通に」みたいなことを言うのですよ。

人が手作業で丹精込めて育てたものは高くてもいいし、うちのバアバがそれをかなり安くして売っていることに対しては、結構私は反対だな、と思った。バアバの畑の話だけど。

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